住宅ローンには固定金利と変動金利の2つのタイプがあります。
固定金利の場合、完済まで金利は一切変わらず、借りた時点で月の返済額も最終的に支払う金額も把握できます。返済計画がたてやすく、複雑なルールもないため分かりやすいです。
一方、変動金利は半年ごとに金利が見直されるため、最終的な返済額は借りた時点では分かりません。金利や返済額について固定金利にはないルールもあり、固定金利にくらべると難しいローンです。
契約時にみる金利は変動金利の方が低く、魅力的に見えます。
しかし、変動金利には金利が上昇して支払う利息が増えたり、返済額が増えて返済計画がうまくゆかなくなってしまったりなどのリスクがあります。
変動金利のルールとリスクについてよく知らないままローンを組んでしまうと、最悪の場合破綻してしまう可能性もあります。賢く変動金利を活用するためには、しっかりとした知識を身に着け、万が一の時のための対策をとっておくことが重要です。
今回は、変動金利の住宅ローンのルールとリスクについて解説してゆきます。
変動金利と固定金利
●変動金利とは
変動金利は半年ごとに金利が見直されます。
契約時の金利は固定金利より低く、非常にお得な住宅ローンに見えます。返済シミュレーションでも返済額を抑えられるような数字が示されている場合が多いです。一見返済しやすく見えるため、変動金利を勧める会社も多いです。
契約時の金利やシミュレーションだけをみて、安易に変動金利を選択してしまう人も少なくありません。
しかし、金利が上がるリスクは常にあります。
住宅ローンは借りる金額が大きいため、たった0.00数%の金利の変動でも支払う利息に大きな影響を及ぼします。よく調べずに選ぶのは危険です。
●安全な固定金利を選ぶべきか
変動金利のリスクを語ると、「ならば固定金利を選ぶべきか」と早合点してしまうかもしれません。
しかし、金利が大きく上がりさえしなければ、変動金利の方が返済負担を抑えることができるのも事実です。固定金利は一度金利を決めてしまったら金利を変えることはできません。
住宅ローンを返していく20年、30年の間、金利がどのように変化していくかは誰にも分かりません。金利の予測ができない以上、固定金利と変動金利のどちらを選ぶべきかの判断も簡単に下すことはできません。
重要なのは、変動金利にあるルールとリスクを理解し、それを踏まえたうえでどちらが向いているか判断するということです。
◯変動金利のルール
変動金利には「半年ごとに金利の見直しがある」ということ以外にも絶対に知っておかなければならないルールがあります。このルールを知らないまま変動金利を選んでしまうとローンの返済に苦しむだけでなく、最悪破綻してしまう可能性もあります。
変動金利の重要なルールは以下の3点です。
1.金利は半年ごとに見直される
2.返済額の見直しは5年ごとに行う
3.返済額の増加はそれまでの支払い額の1.25倍までとする
※ルール2と3については元利均等返済の場合についてのみ今回は解説します。
1.金利は半年ごとに見直される
●何を基準に金利が見直されるのか
変動金利の金利は「短期プライムレート」を元に見直しが行われます。
短期プライムレートとは、金融機関が優良な企業に対して行う貸付に適用する金利のことです。
短期プライムレート自体は、景気などに影響されて変動します。
これまでの変動金利の動向を知りたければ、短期プライムレートの変遷をみればOKです。
●金利更新のタイミングは?
変動金利の金利は半年ごとに見直されます。
見直しのタイミングは、4月と10月とされる場合が多いです。
短期プライムレートは頻繁に動きますが、住宅ローンの金利が変わるのは年2回だけです。その間にどれだけ短期プライムレートが変動したかは関係ありません。更新する月の金利を元に見直しが行われます。
例えば4月10月が更新のタイミングだとしましょう。
4月時点で1%、その後6月に2%、7月に2.5%と上がっていたとしても、10月にまた1%に戻っていれば金利の変動はありません。
反対に、4月から9月まで1%でいたところを、10月になった急に2%に上がってしまった場合、急に上がった10月時点の金利をベースに見直されることになります。
半年ごとの金利の変化は返済の進捗に大きな影響を及ぼすため、金利の動向は必ずチェックしなければなりません。
2.返済額の見直しは5年に1度行う
●金利が変わってもすぐに返済額は変わらない
金利の見直しは半年ごとに行われますが、毎月の返済額がすぐに変わることはありません。
返済額が変わるのは5年に1度です。
では、半年ごとの金利の見直しによって何が変わっているのでしょうか?
例えば3000万円、返済年数35年、金利1%の場合で考えてみましょう。
この場合、月の返済額は84,685円です。内訳は、以下のようになります。
月の返済額84,685円=元金71,428円+利息13,257円
金利の見直しによって金利が1.5%に上昇した場合、月の返済額が変わらないまま元金と利息の割合だけが変化します。
月の返済額84,685円=元金64,257+利息20,428円
このように金利が変わっても返済額そのものは変わりませんが、返済額の中で元金と利息がそれぞれ占めている割合が変わるのです。
金利が上がると予定より元金の返済が遅れ、金利が下がると元金の返済が進むようになっています。
●返済額が変わるのは5年ごと
半年ごとの金利の上下によって元金の占める割合が変わるため、金利が上がり続けたり下がり続けたりすると当初の返済スケジュールとのズレが生じます。そのまま返済額を変えないままでいると、ローンの期間自体が変わってしまいます。
上に上げた例で考えると、金利が0.5%変わることで返済状況に7,171円の差が生じることになります。
1ヶ月程度であれば大した差ではありませんが1年で86,052円、2年なら172,104もの差になります。
この金利の上下によって生じたズレを解消するのが、5年ごとに行われる返済額の見直しです。
返済開始当初より金利が上がっていた場合、元金の割合が減り、返済が遅れています。そのため、毎月の返済額を上げることになります。
反対に、金利が下がっていた場合は、予定よりも元金の返済が進んでいるため月の返済額を減らします。
例えば金利の上昇によって40万円の返済遅れが発生したとします。
残りの返済期間が20年だった場合、40万円÷(20年×12ヶ月)=約1667円となり、毎月の返済額を1667円増やすことになります。
3.返済額の増加はそれまでの支払い額の1.25倍までとする
金利が上がり続ければ返済はどんどん遅れてしまいますし、反対に下がり続ければ返済が進みすぎることになります。
その調整を返済額の見直しで行うのですが、急に返済額が上がりすぎてしまうと返済が難しくなってしまう可能性があります。そのため、急な金利上昇で返済ができなくなってしまう人が出ないように、返済額の増額は1.25倍までと決まっています。
◯変動金利のリスク
変動金利の基本的なルールを確認したところで、今度は変動金利の持つリスクについて考えていきましょう。変動金利のリスクは大きく3つに分けることができます。
1.金利上昇
2.返済計画の破綻
3.未払利息の発生
1.金利上昇
変動金利には当然金利が上がるリスクがつきものです。
どのタイミングで、どの程度まで金利が上昇してしまうかは誰にも分かりません。
金利は様々な要因の影響を受けます。
国内の経済状況だけでなく、海外情勢にも影響されます。天災が経済に大きな影響を与える可能性もあります。経済の専門家でも、政治の専門家でも今後の金利がどうなるかは予想できません。
金利が大幅に上昇すれば、当然返済額も大幅に増加します。相当ギリギリの返済計画をたてていない限り、急に返しきれなくなるほどの事態はそうないはずですが、それでも生活に影響する程度の金利上昇はあってもおかしくありません。
2.返済計画の破綻
変動金利の場合、金利の上昇によって返済計画が破綻してしまうリスクがあります。
住宅ローンを組む際、月の返済額から借入可能金額を決めるというケースが多いです。
固定金利の場合、月の返済額は完済まで一定ですから、収入と返済のバランスが崩れる可能性は非常に低いです。固定金利の住宅ローンを選ぶのなら、月の返済額をベースに借入可能額を決めるのは正解です。
しかし、変動金利の場合は同じ考えかたで借入額を決めるのは危険です。
金利は半年ごとによって変化しますが、返済額は5年ごとにしか変わりません。返済額の見直しが来る前に金利が急激に上昇してしまった場合、返済額の内利息の占める割合ばかりが増えてしまい、元金がなかなか減らなくなってしまう可能性があるためです。
例えば3000万円、返済年数35年、金利1%なら月の返済額は84,685円です。
84,685円の内訳は、元金71,428円+利息13,257円となります。
ここで返済額の見直しが来る前に金利が5%に上がってしまうと、84,685円の内訳が元金4,707円、利息79,978円となり、利息の占める割合の方が多くなってしまいます。
本来毎月71,428円元金を減らしていたところが4,707円になるのですから、1ヶ月あたり66,721円返済が遅れていくことになります。
この状況が1年間続いたとなると800,652円の遅れ、2年間になれば返済の遅れは1,601,304円になります。
この遅れを取り戻すためには返済額の調整が必要になります。
しかし、返済額の増加はそれまでの支払い額の1.25倍までと決まっています。どんなに遅れが溜まっていても84,685円の1.25倍である105,856までしか増やすことができません。次の返済額の見直しの時点で
また遅れが積み重なっていた場合、最大月132,320円の返済になる可能性もあります。
元々毎月8万円強の返済を予定していたにも関わらず、月の返済額が10万円、13万円と増えてしまったらどうなるでしょうか。生活を圧迫するどころか、住宅ローンの返済が困難になってしまう人もいるでしょう。
変動金利の場合、元々は無理のない計画をたてたつもりでも金利の上昇によって返済計画が崩壊してしまう可能性があります。
3.未払利息の発生
変動金利のリスクの中で最も恐ろしいのが未払利息の発生です。
未払利息とは、利息が借金の返済額の100%を超えてしまい、通常の返済では払いきれない利息のことです。未払利息が発生すると、毎月きちんと返済を行っていても元金は全く減らないため、借金ばかりが増えてしまいます。
先ほど、金利が5%になった場合、84,685円の内訳は元金4,707円、利息79,978円となり、利息の占める割合の方が多くなると説明しました。
もし金利がさらに上昇し、8%になると1月の利息は141,648円になり、毎月の返済額である84,685円を超えてしまいます。通常の返済を行っているだけでは月56,963円の未払利息が発生してしまいます。
もしそのまま金利が高止まりしてしまった場合、1年間に683,556円円の借金が増えていくことになります。しかも元金の返済は行われていないため、住宅ローンの返済は全く進んでいません。
未払利息は金利が下がれば自然に解消されますが、借金がかさみ続けている状態で運を天に任せ、金利が下がるのをただ待つのは賢い選択ではありません。積極的に未払利息を清算していかなければ、負のスパイラルから抜け出すのは難しいでしょう。
未払利息を解消するための手段は、一括で未払利息を清算する、分割で未払利息を清算する、月々の返済を未払利息の清算にあてる、の3つです。
一括払い・分割払いの場合、月々の返済とは別にまとまった金額の出費が発生することになりますが、一度清算してしまえば後々の返済にはひびきにくいです。
月々の返済を未払利息の清算にあてた場合、毎月の出費に変動はありません。しかし、元金の返済がそれだけ遅れることになるため、返済額の見直し時に増額になる可能性が非常に高いです。
未払利息の清算を行わなかった場合、利息は最後の返済時に一括で支払うことになります。場合によっては数百万以上の請求となるため、返済が困難になってしまいます。完済間際で困ることのないように、未払利息発生時は早急に解消するように心がけましょう。
●変動金利を選択するなら金利のチェックは必須
変動金利では、金利の変化によって元金の返済状況が変わります。
金利の見直しは半年ごとに行われますが、返済金額の見直しは5年ごとにしか行われません。自発的に金利をチェックしなければ、返済の遅れや未払利息の発生に気がつくことができません。
金利のチェックを怠ると、返済額の見直しの段階になって急に月々の出費が増えることに驚いたり、完済間際になって未払利息が溜まっていることに気がついたりする事態になります。
特に恐ろしいのが未払利息の発生に気がつかないというケースです。未払利息が発生してしまうと借金は膨らむ一方になるため、急いで対応しなければなりません。
金利のチェックが面倒だという人や、忘れそうだという人には変動金利はおすすめしません。固定金利を選んだ方が安心です。
◯変動金利の活用には正しい知識が必要
変動金利はローン返済開始直後の金利が低く、スタート時の返済額を抑えられるというメリットがあります。
しかし、固定金利にはないルールやリスクがあり、それらを正しく理解・把握しなければ危険です。
変動金利の基本的なルールは以下の3つです。
1.金利は半年ごとに見直される
2.返済額の見直しは5年ごとに行う
3.返済額の増加はそれまでの支払い額の1.25倍までとする
たとえ金利が短期間に大きく変動しても、金利が変わるのは年2回だけです。しかも、返済額の見直しは5年に1度しか行われないため、月の返済額が短期間にころころ変わってしまう心配はありません。
また、返済額が増える場合もそれまでの返済額の1.25倍までにしか増えないため、急激に返済額が増える心配も少ないです。
しかし、返済額の大幅な上下が抑えられている一方で、急激に金利が大幅上昇した際には大きなリスクを伴います。
変動金利を選ぶうえで知って絶対に知っておかなければならないリスクは次の3つです。
1.金利上昇
2.返済計画の破綻
3.未払利息の発生
特に未払利息が発生した場合の対処を誤ると、借金を返しても返しても返済が終わらない負のスパイラルに突入してしまう可能性があります。
変動金利の住宅ローンにはメリットもありますが、リスクも存在します。
住宅ローンで失敗しないためには、変動金利のルールとリスクを理解したうえで返済計画をたてることが大切です。変動金利を選択する場合、金利の上昇に備えて返済には常に余裕を持っておく必要があります。
また、金利の動向には常に気を配り、返済の進捗状況についてしっかりと把握するようにしましょう。
変動金利はリスクが大きいため、怖いものというイメージを持っている人が多いです。しかし、しっかりと変動金利について理解し、正しい返済計画をたて、万が一の時のための対処に備えておけばそれほど恐ろしいものではありません。